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詩と小説
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 肴倉家の最寄り駅のすぐ近くに大型ショッピングセンターがある。聖樹はそのショッピングセンターの書店にいた。学校帰りの寄り道だ。今日は彼が愛読しているミステリーの新刊の発売日だ。新刊コーナーで目当ての本を見つけ、レジへ持っていく。目的を果たしたら、もう用はなくそそくさと帰ろうとしたところ、後ろから声をかけられた。
「やっぱり聖樹くんだぁ。」
「え、あの…。」
 女の人だった。姉の砂夜と同じ制服を着てる。
「私、砂夜ちゃんの友達なんだけどね。」
「は、はぁ…。」
 どう答えていいのか分からなかった。砂夜の友達とは数人面識があった。だが、今目の前にいるのは全く知らない人だった。不信感しか生まれない。
「どこかで会いましたっけ?」
「覚えてないの?つれないなぁ。中等部の時にあったじゃないの。」
 聖樹と砂夜は中学から私立の草針学園に通っている。2歳離れているため、中等部と高等部ではそれぞれ1年間同じ学校に通うことになる。その間は校内で会うこともある。この人と中等部で会ったとすれば2年前になる。聖樹にとっては2年も前のことだ。
「覚えてないんですけど。」
「もう。まぁでもいいや。しっかし、聖樹くんも綺麗な顔してるよねぇ。こんな美少年がリアルにいるなんて嬉しい。砂夜ちゃんも美人だしね。羨ましいな。」
「あ、あのぉ…。」
 砂夜の友人らしき人物は聖樹の顔を至近距離でまじまじと見つめている。それもかなり興味深そうに、遠慮なく。聖樹は最初は状況が飲み込めなかったが、次第にイライラしてきた。とにかく早くこのわけが分からない人から解放されたい。
「なんなんですか!!」
 少し大きな声でそう言うと砂夜の友人らしき人物は驚いた様子で距離を取った。
「あぁごめんね。美少年が珍しくって、つい。」
「ついじゃありませんよ」
「次からは気をつけるからさ。そう言えば、私のこと知らないんだよね。藤沢果澄。よろしくね。」
 悪びれる様子もなく握手を求めてくる。質の悪い人だ。だが、どうすることもできず聖樹は右手を出し、応じた。藤沢果澄は「じゃあ、またね。」と言って書店の中へ入っていった。
 “また”なんてあってほしくない。あったとしてもよろしくなんてしない。そう思いながら帰路についた。
 
帰宅し、砂夜の帰りを待つ。砂夜の変な友人に会い、失礼なことをされたと訴えるためだ。今日買ったミステリーは砂夜に話を聞いてから読むことにした。愚痴れば少しはすっきりするかもしれない。
 
「藤井さん?友達ってわけじゃないけど。」
「砂夜の友達だって言ってたけど。」
「そう言ったら怪しまれないとでも思ったんじゃないの。」
「もしくは、向こうは砂夜のこと友達だと思ってるか」
「まぁなんでもいいけどね。中3の時に同じクラスで、確かなんかの授業で同じ班になったことはあるよ。高校に入ってからはクラス離れたしね。移動教室の時にでもすれ違ったんじゃないの?あんた目立つんだし。」
「いやいやいや…。」
「そう言えば、藤井さんって美少年が好きだって聞いたことあるなぁ。気に入られたんじゃないの。」
「え…。」
「良かったねぇ。」
「感慨深く言うなって。」
「いいじゃなの、年上。」
「違うって。」
「照れなくてもいいから。藤井さんに明日聞いてみるよ。」
「何を!?」
「まぁまぁ…。お姉ちゃんは応援してるから。」
 すっきりするところでなく、新たに頭を抱える事態となってしまった。一方の砂夜は弟のキューピッド役ができるかもしれないと嬉々としていた。
 
 翌日の昼休み、昼食を終えた砂夜は藤井の教室まで来ていた。
「昨日、うちの弟に会ったって聞いたんだけど。」
「聖樹君だよね。相変わらず綺麗な顔してるよね。砂夜ちゃんも美人だし羨ましい。」
「ありがとう。藤井さんが美少年好きって聞いたんだけど、うちの弟に興味でもあるの。」
「もちろん!!だってリアルでしかも手の届くところにあんな美少年がいるとは思ってなかったもの。そういえば聖樹君ってお付き合いしてる方はいるの?」
「彼女ならいないと思うよ。聞いたことないもん。」
「そう彼女いないんだぁ。ますますいいわねぇ。」
「藤井さんがその気なら応援するよ。」
「応援だなんで、そんなのいいよ。来年ここに入ってくるんでしょ。見てるだけで癒されるって言うか、妄想も広がるよね。」
「え、妄想?」
 テンションを挙げて言う藤井に砂夜は戸惑っていた。“妄想”という言葉を聞いて「まさか」と思いはじめたのだ。
「芸能人だと裏側が見えないからあんまり楽しくないのよね。2次元は無限の可能性があるんだけど。3次元の制限された世界で妄想するってのもありだと思うの。でも身近な人じゃやっぱりビジュアル的にしっくりくる人が少ないしね。イケメンとか言われても、男らしさが強いとイマイチなのよね。その点、聖樹君は女装とかも似合いそうな顔立ちで色白。背はまぁこれから伸びるんだろうけど、今のままでいてほしいかな。」
 暴走状態の藤井に砂夜はどう声をかけていいのか分からなくなっていた。腐女子の扱いには慣れていないせいだ。しかも自分の弟を恋愛対象として見ていないだけでなく、妄想の材料にしているとわかり、えもいわれぬ気持ちになった。これで困らない人間はおそらくいない。砂夜は途方に暮れだしていた。その間にも藤井の妄想トークは止まらない。いつの間にか自作小説の話になり、そしてイベントの話になっていた。
「今度のイベントでネットで知り合った大学生の人と会うの。趣味が合うから楽しみでね。本当は出展したかったんだけど12月はテストもあるし。」
「そ、そう…。」
 もはや適当に相槌を打つしかなかった。どうやってこの妄想トークを止めたらいいのかわからない。そして藤井の暴走は予鈴が鳴るまで続いた。
 
 午後の授業の間中、砂夜は悩んでいた。藤井が腐女子で、聖樹を妄想対象にしてることを本人に伝えていいものか。姉の自分でさえ困惑したのだ。本人ならおそらくもっと取り乱すはず。応援するとは言ったものの、聖樹は乗り気ではなかった。聖樹に興味はなかったとだけ伝えておこうか。
 
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