詩と小説
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10月の半ばを過ぎた頃。穏やかな土曜日の昼下がりに砂夜は自室の鏡の前で悩んでいた。持っている服をとっかえひっかえ体に合わせている。クローゼットは開けっ放しにし、足元には気に入らなかった洋服が散らかっている。新しい服を買いに行こうにもアルバイトもしていない高校生の彼女にはそのお金がないのだ。
2時間ほど悩みに悩んだ砂夜は結局自分で選ぶことを止め、弟に助けを求めることにした。リビングには彼女の2人の弟がいた。中学生の聖樹と小学生の夏希だ。まだ小学生の夏季に相談したところで大した答えは返ってこないだろうと判断した砂夜は聖樹に話を持ちかけることにした。
「聖樹、ちょっと相談があるんだけど」
「嫌だね」
「話くらい聞いてよ」
「砂夜からの相談なんてろくなことじゃないに決まってる」
聖樹は過去に砂夜から相談を持ちかけられたことが多いが、大抵は愚痴を聞かされるだけだ。適当に相槌を打つだけで聞き流していると「ちゃんと聞いてよ」と怒られることもあった。砂夜からの相談は彼にとっては拷問のようなものだ。
「今回は悩める乙女としての相談なの。服のことで」
「じゃあ同じように悩める乙女にでも相談しなよ。そうだ、もうすぐ母さん帰ってくるし」
「お母さんのセンスじゃちょっと」
砂夜が渋るのは仕方ないことだった。砂夜だけではない。3人ともが母にコーディネートしてもらうのが嫌なのだ。自分のおしゃれをしたい砂夜も、思春期で母親を避けがちな聖樹だけでなく、まだ小学生の夏希でさえ母が買ってきた服は敬遠している。それほどおばちゃん丸出しなファッションセンスをしている。
上の2人の言い合いが終わらないと判断したのか我関せずだった夏希が口を出してきた。
「砂夜ちゃん、どんな相談なの?聖樹もそれ聞いてから乗るか乗らないか決めたら」
「さっすがなっちゃん。誰かさんと違って優しい」
「なっちゃんって呼ぶなって」
「明日、生徒会の仲間と出かけるんだけど、何着て行こうかと思ってね」
「生徒会の?確か会長になったんだっけ?」
「そう。先輩は引退だし、1年生も入ったし、親睦を深めようと思ってね」
「砂夜が会長だなんてもう高等部は終わりだな」
「そんな言い方ないでしょ。ちょっと成績が悪いだけで」
ちょっとどころではなく、砂夜はとにかく勉強が苦手だった。定期テストでは赤点を連発している。親が呼び出されたこともある。小学生の頃は塾でも上位に入るほどの成績で中学受験にも難なく成功したが、その反動なのか中等部以降の成績は散々なものだった。だが、素行は良く、また中高通じて生徒執行部の役員を務めており、成績面以外では特に問題視されていない。
「着ていく服なんてなんでもいいじゃん。デートならまだしも」
「まぁ、そうなんだけど」
「あぁ二条先輩もいるからか」
二条とは砂夜と同学年の男子生徒で砂夜と同じく生徒会の役員を務めている。聖樹とも面識がある人物である。そして砂夜が淡い恋心を抱いている相手でもある。
「だから悩める乙女の相談なんだ。それだったら尚更僕に意見を求めるのが間違い。二条先輩が気に入りそうな女の子のファッションなんて知らないし。まぁそれなりに男受けするような格好でもしていけば」
面倒になった聖樹は投げやりになり、二条なる人物が誰なのか分からない夏希はすでに戦線離脱だ。
「もういい。自分でどうにかする」
「ジーパンにTシャツはやめときなよ。色気のなさを強調するだけだから」
最後に毒づいた聖樹を睨みつけ、砂夜は自室へ戻っていった。
「あんまり砂夜ちゃん怒らせるなよ」
「あっちが勝手に怒ってるんだって。女ってのは怖いよな。まったくもって理解できん。女に幻想なんて抱くなよ、なっちゃん」
「なっちゃん言うなって。みっちゃんって呼んでやろうか」
「どうぞ、お好きに」
飄々と言った聖樹に夏希は何も言い返さなかった。
自室へ戻った砂夜はまた悩んでいた。弟達に適当にあしらわれたことは彼女にとってはどうでもよかった。明日何を着ていくべきかが目下解決すべき問題である。2人っきりではなくとも、好きな相手と出かけるのだ。可愛く思われたいが無理をしているような格好はしたくない。二条と学校外で合うのはこれが初めてではない。毎回、こんな風に悩んでいるのだ。そして毎回悩みに悩んだ挙句、何がいいのか決まらず、寝不足のままそのへんにあった服を着ていた。今回はそんなことにはなりたくなかったのだ。
疲れてきたのか、ため息をつき、床に散らばった服の中からワンピースをひとつ取り上げた。
「もうこれでいいか」
砂夜が手にしたのはチェック柄のシャツワンピだ。茶系で季節にもあっている。黒のジャケットと編上げのブーツを合わせればそれなりに見えるはずだ。聖樹が言っていたようにデートではない。あまり気合いを入れすぎるのもどうかと思う。
とりあえず、着ていく服は決まったものの他人の意見は聞いてみたい。そう思った砂夜はリビングにいた聖樹と夏希に「こんなんでどうかな」と聞いてみた。だが返ってきた言葉は2人とも「あーいいんじゃないの」だった。
2時間ほど悩みに悩んだ砂夜は結局自分で選ぶことを止め、弟に助けを求めることにした。リビングには彼女の2人の弟がいた。中学生の聖樹と小学生の夏希だ。まだ小学生の夏季に相談したところで大した答えは返ってこないだろうと判断した砂夜は聖樹に話を持ちかけることにした。
「聖樹、ちょっと相談があるんだけど」
「嫌だね」
「話くらい聞いてよ」
「砂夜からの相談なんてろくなことじゃないに決まってる」
聖樹は過去に砂夜から相談を持ちかけられたことが多いが、大抵は愚痴を聞かされるだけだ。適当に相槌を打つだけで聞き流していると「ちゃんと聞いてよ」と怒られることもあった。砂夜からの相談は彼にとっては拷問のようなものだ。
「今回は悩める乙女としての相談なの。服のことで」
「じゃあ同じように悩める乙女にでも相談しなよ。そうだ、もうすぐ母さん帰ってくるし」
「お母さんのセンスじゃちょっと」
砂夜が渋るのは仕方ないことだった。砂夜だけではない。3人ともが母にコーディネートしてもらうのが嫌なのだ。自分のおしゃれをしたい砂夜も、思春期で母親を避けがちな聖樹だけでなく、まだ小学生の夏希でさえ母が買ってきた服は敬遠している。それほどおばちゃん丸出しなファッションセンスをしている。
上の2人の言い合いが終わらないと判断したのか我関せずだった夏希が口を出してきた。
「砂夜ちゃん、どんな相談なの?聖樹もそれ聞いてから乗るか乗らないか決めたら」
「さっすがなっちゃん。誰かさんと違って優しい」
「なっちゃんって呼ぶなって」
「明日、生徒会の仲間と出かけるんだけど、何着て行こうかと思ってね」
「生徒会の?確か会長になったんだっけ?」
「そう。先輩は引退だし、1年生も入ったし、親睦を深めようと思ってね」
「砂夜が会長だなんてもう高等部は終わりだな」
「そんな言い方ないでしょ。ちょっと成績が悪いだけで」
ちょっとどころではなく、砂夜はとにかく勉強が苦手だった。定期テストでは赤点を連発している。親が呼び出されたこともある。小学生の頃は塾でも上位に入るほどの成績で中学受験にも難なく成功したが、その反動なのか中等部以降の成績は散々なものだった。だが、素行は良く、また中高通じて生徒執行部の役員を務めており、成績面以外では特に問題視されていない。
「着ていく服なんてなんでもいいじゃん。デートならまだしも」
「まぁ、そうなんだけど」
「あぁ二条先輩もいるからか」
二条とは砂夜と同学年の男子生徒で砂夜と同じく生徒会の役員を務めている。聖樹とも面識がある人物である。そして砂夜が淡い恋心を抱いている相手でもある。
「だから悩める乙女の相談なんだ。それだったら尚更僕に意見を求めるのが間違い。二条先輩が気に入りそうな女の子のファッションなんて知らないし。まぁそれなりに男受けするような格好でもしていけば」
面倒になった聖樹は投げやりになり、二条なる人物が誰なのか分からない夏希はすでに戦線離脱だ。
「もういい。自分でどうにかする」
「ジーパンにTシャツはやめときなよ。色気のなさを強調するだけだから」
最後に毒づいた聖樹を睨みつけ、砂夜は自室へ戻っていった。
「あんまり砂夜ちゃん怒らせるなよ」
「あっちが勝手に怒ってるんだって。女ってのは怖いよな。まったくもって理解できん。女に幻想なんて抱くなよ、なっちゃん」
「なっちゃん言うなって。みっちゃんって呼んでやろうか」
「どうぞ、お好きに」
飄々と言った聖樹に夏希は何も言い返さなかった。
自室へ戻った砂夜はまた悩んでいた。弟達に適当にあしらわれたことは彼女にとってはどうでもよかった。明日何を着ていくべきかが目下解決すべき問題である。2人っきりではなくとも、好きな相手と出かけるのだ。可愛く思われたいが無理をしているような格好はしたくない。二条と学校外で合うのはこれが初めてではない。毎回、こんな風に悩んでいるのだ。そして毎回悩みに悩んだ挙句、何がいいのか決まらず、寝不足のままそのへんにあった服を着ていた。今回はそんなことにはなりたくなかったのだ。
疲れてきたのか、ため息をつき、床に散らばった服の中からワンピースをひとつ取り上げた。
「もうこれでいいか」
砂夜が手にしたのはチェック柄のシャツワンピだ。茶系で季節にもあっている。黒のジャケットと編上げのブーツを合わせればそれなりに見えるはずだ。聖樹が言っていたようにデートではない。あまり気合いを入れすぎるのもどうかと思う。
とりあえず、着ていく服は決まったものの他人の意見は聞いてみたい。そう思った砂夜はリビングにいた聖樹と夏希に「こんなんでどうかな」と聞いてみた。だが返ってきた言葉は2人とも「あーいいんじゃないの」だった。
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