詩と小説
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2月14日。セント・バレンタインデーである。砂夜にとっては友達とお菓子を食べ、クラスの男子にチョコをばら撒く日である。聖樹にとってはただの厄日である。
そして末っ子の夏希は困り果てていた。珍しく学校から真っ直ぐ帰宅し、自室にこもり、ベッドに腰を掛け、手に持った綺麗にラッピングされた箱を見つめている。生まれて初めてバレンタインに家族以外からのチョコを貰ったのだ。
朝、学校に付くと机の中から可愛いメモ用紙が一枚出てきた。“放課後に正門で待ってます”とだけ書かれていた。これを読んだ夏希は天にも昇る気持ちになった。「俺にも春が来た!!」そう思わずにはいられない。毎年、山のようにチョコを貰う聖樹や父を羨ましく思っていたのだ。だが、容姿は十人並みで口もうまくない彼にとって“モテ”は夢のまた夢であった。そんな夏希がバレンタインに呼び出されたのだ。しかし勘違いや思い上がりのように思われたくはないため、放課後になるまで平静を装っていた。勿論、内心は落ち着いてなどいられない。早く放課後になってほしいと願い、授業も頭に入ってこなかった。
放課後になり、友人たちの誘いもすべて断った夏希は足早に正門へ向かった。下校時間のため多くの児童がいた。その中にいた女子が1人こちらに向かってくる。確か4年生の時に同じクラスだった子だ。彼女は夏希に「これ」とだけ言い、ピンクの箱を押しつけるように渡し、逃げるように去っていった。ロマンチックな雰囲気での告白を期待していた夏希は呆気にとられてしまい、どうしていいのか分からなくなった。
そのまま帰宅し、今はどうするべきか悩んでいる。生まれて初めてのチョコに対する喜びはなかった。誰かに相談するべきだろうか。相談するなら誰がいいだろうか。友人は避けたい。両親は論外。そうなると残るは2人しかいない。
「砂夜ちゃんか聖樹か……。」
砂夜は良くも悪くも大騒ぎするだろう。聖樹は適当に流すに決まっている。
「砂夜ちゃんにしよう。」
砂夜なら騒ぎはするが真剣に相談に乗ってくれそうだ。少なくとも女心は分かっている。幸いなことにこの日は聖樹よりも先に砂夜が帰宅した。早速、チョコを貰ったこととどうするべきか聞くことにした。
「なっちゃんがチョコ貰ってくる日が来るなんて!!」
なぜか砂夜は感動していた。
「据え膳食わぬは男の恥よ。チョコ食べて、早速返事しないとね。」
「いや、そうじゃなくてね。っていうか今すぐ返事しないといけないの?」
「本気の告白を1ヶ月も放置するの?待たされる女の気持も考えないと。」
「いや、どうしたらいいのか分かんなくて。」
「どうしたらって?」
「俺にも分かんないんだけど。」
チョコは貰ったが告白されたわけではない。箱の中にはトリュフが入っていただけでカードの類は一切なかった。ただ、あの真っ赤な顔は「好きだ」と言っているようなものだった。過去に同じクラスだっただけの女の子。好きも嫌いもはっきりしない。その程度の存在だったのだ。
「今は好きじゃなくても実際に付き合うと分かんないよ。」
「付き合いたいとかそういうんじゃなくて。」
「断るんだったら言葉は選ぶこと。でも、どんな言い方しても傷つけちゃうから、そのへんは覚悟しとかないとねー。」
「で、俺はどうしたらいい?」
「そんなことは自分で考えなさい。」
全体的にはぐらかされたようにも思えるような会話だった。砂夜が敢えて核心を避けているようにも思える。
結局のところ、砂夜に相談してもどうにもならなかった。いや、誰に相談してもどうにもならなかったに違いない。自分でもどうすればいいのか分からない。そんな感情の処理は自分でするしかない。
「で、僕にどうしろと?」
「別にどうってことはないけどさ。」
砂夜にさらっと流された夏希は誰でもいいから話を聞いてほしくなった。そしてちょうどいいところに聖樹が帰ってきたのである。「自分で考えろ」と言われるのを覚悟で聖樹に相談してみることにしたが、厄日の聖樹は機嫌が悪い。だが臆することなく話を進める。
「聖樹はモテんだろ。女の扱いには慣れてるだろうし。今日だってでかい紙袋いっぱいにチョコ貰ったんだし。」
「人を遊び人みたいに言うなよ。」
「そんなこと言ってねぇよ。」
「そう聞こえた。まぁ僕は今は彼女を作る気はないから断ってるけど。どうしたいかなんて人に相談して結論がでるわけじゃない。それは夏希だってわかってるんだろ?」
戸惑いながらも頷いた夏希に聖樹は満足そうに言った。
「話を聞いて貰いたいだけだったんだろ。まぁそれで多少はすっきりするかもな。すっきりしたら冷静になれる。それから考えたらいい。時間は多少はかかるかもな。砂夜が夏希の話を軽く流したのは冷静にさせるため。砂夜に話した時はまだ混乱してただろ?」
「まぁ、そうかも……。」
「あれでもお姉ちゃんだからな。」
「血は繋がってないけど。」
「それは言うなって。」
「でもさ……。」
「姉は姉だよ。」
よく分からない理屈だ。ただ砂夜も聖樹も自分のことをよく見てる。それだけはよく理解できた。
「砂夜ちゃんが本気の告白を1ヶ月も放置するのは酷みたいなこと言ってた。」
「ホワイトデーに返事しないといけないなんて決まりはない。あれはお返しをする日なんだから。待たせるのは可哀想だから早い方がいいけど、焦りは禁物。」
夏希が「分かった」と言った直後、タイミングを見計らったように砂夜が部屋に入ってきた。
「ねぇ、なっちゃん。お姉ちゃんからのバレンタインチョコ食べない?」
「あー……じゃ食べる。」
「じゃあリビングに行こうか。そうだ聖樹が貰ってきたチョコも一緒に食べよう。」
「父さんのも貰うんでしょ?」
「もちろん!!やっぱり社会人は凄いよね。義理でもブランドなんだもん。」
「お返しは大変だけどね。」
溜め息をつきながら言った聖樹にとっては他人事ではない。そんな聖樹を羨ましいと思う気持ちはまだある。だが、チョコ1つで舞い上がり、そして困惑する自分はまだ子供なのだと思い知らされたようだった。
そして末っ子の夏希は困り果てていた。珍しく学校から真っ直ぐ帰宅し、自室にこもり、ベッドに腰を掛け、手に持った綺麗にラッピングされた箱を見つめている。生まれて初めてバレンタインに家族以外からのチョコを貰ったのだ。
朝、学校に付くと机の中から可愛いメモ用紙が一枚出てきた。“放課後に正門で待ってます”とだけ書かれていた。これを読んだ夏希は天にも昇る気持ちになった。「俺にも春が来た!!」そう思わずにはいられない。毎年、山のようにチョコを貰う聖樹や父を羨ましく思っていたのだ。だが、容姿は十人並みで口もうまくない彼にとって“モテ”は夢のまた夢であった。そんな夏希がバレンタインに呼び出されたのだ。しかし勘違いや思い上がりのように思われたくはないため、放課後になるまで平静を装っていた。勿論、内心は落ち着いてなどいられない。早く放課後になってほしいと願い、授業も頭に入ってこなかった。
放課後になり、友人たちの誘いもすべて断った夏希は足早に正門へ向かった。下校時間のため多くの児童がいた。その中にいた女子が1人こちらに向かってくる。確か4年生の時に同じクラスだった子だ。彼女は夏希に「これ」とだけ言い、ピンクの箱を押しつけるように渡し、逃げるように去っていった。ロマンチックな雰囲気での告白を期待していた夏希は呆気にとられてしまい、どうしていいのか分からなくなった。
そのまま帰宅し、今はどうするべきか悩んでいる。生まれて初めてのチョコに対する喜びはなかった。誰かに相談するべきだろうか。相談するなら誰がいいだろうか。友人は避けたい。両親は論外。そうなると残るは2人しかいない。
「砂夜ちゃんか聖樹か……。」
砂夜は良くも悪くも大騒ぎするだろう。聖樹は適当に流すに決まっている。
「砂夜ちゃんにしよう。」
砂夜なら騒ぎはするが真剣に相談に乗ってくれそうだ。少なくとも女心は分かっている。幸いなことにこの日は聖樹よりも先に砂夜が帰宅した。早速、チョコを貰ったこととどうするべきか聞くことにした。
「なっちゃんがチョコ貰ってくる日が来るなんて!!」
なぜか砂夜は感動していた。
「据え膳食わぬは男の恥よ。チョコ食べて、早速返事しないとね。」
「いや、そうじゃなくてね。っていうか今すぐ返事しないといけないの?」
「本気の告白を1ヶ月も放置するの?待たされる女の気持も考えないと。」
「いや、どうしたらいいのか分かんなくて。」
「どうしたらって?」
「俺にも分かんないんだけど。」
チョコは貰ったが告白されたわけではない。箱の中にはトリュフが入っていただけでカードの類は一切なかった。ただ、あの真っ赤な顔は「好きだ」と言っているようなものだった。過去に同じクラスだっただけの女の子。好きも嫌いもはっきりしない。その程度の存在だったのだ。
「今は好きじゃなくても実際に付き合うと分かんないよ。」
「付き合いたいとかそういうんじゃなくて。」
「断るんだったら言葉は選ぶこと。でも、どんな言い方しても傷つけちゃうから、そのへんは覚悟しとかないとねー。」
「で、俺はどうしたらいい?」
「そんなことは自分で考えなさい。」
全体的にはぐらかされたようにも思えるような会話だった。砂夜が敢えて核心を避けているようにも思える。
結局のところ、砂夜に相談してもどうにもならなかった。いや、誰に相談してもどうにもならなかったに違いない。自分でもどうすればいいのか分からない。そんな感情の処理は自分でするしかない。
「で、僕にどうしろと?」
「別にどうってことはないけどさ。」
砂夜にさらっと流された夏希は誰でもいいから話を聞いてほしくなった。そしてちょうどいいところに聖樹が帰ってきたのである。「自分で考えろ」と言われるのを覚悟で聖樹に相談してみることにしたが、厄日の聖樹は機嫌が悪い。だが臆することなく話を進める。
「聖樹はモテんだろ。女の扱いには慣れてるだろうし。今日だってでかい紙袋いっぱいにチョコ貰ったんだし。」
「人を遊び人みたいに言うなよ。」
「そんなこと言ってねぇよ。」
「そう聞こえた。まぁ僕は今は彼女を作る気はないから断ってるけど。どうしたいかなんて人に相談して結論がでるわけじゃない。それは夏希だってわかってるんだろ?」
戸惑いながらも頷いた夏希に聖樹は満足そうに言った。
「話を聞いて貰いたいだけだったんだろ。まぁそれで多少はすっきりするかもな。すっきりしたら冷静になれる。それから考えたらいい。時間は多少はかかるかもな。砂夜が夏希の話を軽く流したのは冷静にさせるため。砂夜に話した時はまだ混乱してただろ?」
「まぁ、そうかも……。」
「あれでもお姉ちゃんだからな。」
「血は繋がってないけど。」
「それは言うなって。」
「でもさ……。」
「姉は姉だよ。」
よく分からない理屈だ。ただ砂夜も聖樹も自分のことをよく見てる。それだけはよく理解できた。
「砂夜ちゃんが本気の告白を1ヶ月も放置するのは酷みたいなこと言ってた。」
「ホワイトデーに返事しないといけないなんて決まりはない。あれはお返しをする日なんだから。待たせるのは可哀想だから早い方がいいけど、焦りは禁物。」
夏希が「分かった」と言った直後、タイミングを見計らったように砂夜が部屋に入ってきた。
「ねぇ、なっちゃん。お姉ちゃんからのバレンタインチョコ食べない?」
「あー……じゃ食べる。」
「じゃあリビングに行こうか。そうだ聖樹が貰ってきたチョコも一緒に食べよう。」
「父さんのも貰うんでしょ?」
「もちろん!!やっぱり社会人は凄いよね。義理でもブランドなんだもん。」
「お返しは大変だけどね。」
溜め息をつきながら言った聖樹にとっては他人事ではない。そんな聖樹を羨ましいと思う気持ちはまだある。だが、チョコ1つで舞い上がり、そして困惑する自分はまだ子供なのだと思い知らされたようだった。
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