lovers

　私には彼氏がいる。ちょうど一回り年上でサラリーマンの彼氏。友達は私と彼の年の差を言う。「本気じゃない。遊ばれてるだけ。」とも。でもそんなの気にしない。芸能界にだって年の差カップルは多いじゃない。別に年上の恋人がいるからって大人ぶったこと言いたいわけじゃない。実際、私たちにはどうでもいいこと。
 
　親には内緒。お姉ちゃんも今の私と同じ年の時に彼氏が出来たけど、お父さんが大反対してたっけ。ヤンキー全開の人だったから仕方ないか。結局はすぐに別れたみたいだけど。でも私の彼は違う。良い大学を出て、一流企業で将来を嘱望されてるんだから。
 
　セーラー服の私でも彼とはお似合いカップル。金曜日はデートの日。学校帰りに彼が勤めてる会社の近くにある喫茶店で待ち合わせ。彼を待つ時間がもどかしいけど、苦痛じゃない。手をつないで歩いても不自然じゃない。
 
　「好きだ」も「愛してる」もちゃんと言ってくれる。キスもそれ以上も。優しいだけじゃないところが堪らない。
 
いつかお揃いの指輪をする。私には彼しかいない。彼にだって私しかいないんだから。
 
　だから、これは嘘なの。幻覚を見てるだけ。
 
　今日は金曜日。いつもの喫茶店で彼を待ってた。さっき、彼から「仕事が忙しくて今日は会えない。」ってメールがあった。「仕事なら仕方ないか。」と思って店を出た。最寄りの駅に向かう途中、彼を見かけた。美人な女の人と一緒だった。お揃いの指輪をしていた。
 
　これは幻だ。
 
　彼の本命は私。「可哀想に、遊ばれてるだけよ。」そう思った時、その女性と目が合った。彼女は笑った。その瞬間、私は哀れな女になった。

夏の日

　高校生最後の夏はとにかく忙しい。夏休みだというのに休んでる暇なんてない。学校の補習に予備校の夏期講習。さらに合間には文化祭の準備にも顔を出さないといけない。文化祭なんて興味の欠片もないけど、たまには何かしら参加しとかないと、面倒なことになる。青春したいクラスメートから色々言われるからだ。やりたいやつだけで盛り上がっとけと思うけど、そんなことは言わない。僕は保守主義だから。余計な火の粉は御免だ。
　毎日のように勉強に明け暮れても、何のために大学に行くのかなんて分からない。多くのクラスメートが進学するから、僕も4年制の大学を志望してる。教師も親も「なぜこの大学を志望するのか」なんて聞いてこない。僕の学力と志望大の偏差値を比べてあーだこーだ言うだけだ。教育者としてそれでいいのかと思ったこともある。今の僕にとっては少しでも良い大学に現役で合格すること自体が目的になっている。
 
　毎日うだるような暑さが続く。猛暑・熱帯夜なんて言葉を聞かない日はない。今日は補習の後で教室に寄った。もちろん文化祭の準備のため。ラッキーなことに僕のクラスは展示だ。舞台発表や販売とは違って当日は何もしなくていい。しかも今日は結構な人数が集まっていたのでさっさと逃げてきた。図書館で勉強しようにも夏休みほど集中できない。グラウンドからの運動部の掛け声やあちこちから話し声が聞こえてくる。「予備校の自習室に行こうか」と思っても夏期講習中の予備校は千客万来。とてもじゃないが落ち着ける環境ではない。仕方ないので帰ることにした。移動中の電車の中でも参考書を開き、少しでも多くの英単語を頭に入れていく。今年の夏はほとんど毎日がこんな感じだ。受験が終わってから思うのは、多分勉強ばかりしていたということ。他に思い出がなくても構わない。この夏、無駄にできる時間なんて無い。少しでも良い大学の良い学部に入学しなければ。大学に入ってからどうするかなんて考える時間がもったいない。就職難だとか氷河期だとか言われているけど、まぁなんとかなるだろう。
 
　それにしても、青春真っ只中のやつらは進路のことを考えているんだろうか。志望してる大学に見合うだけの学力を付けるために何かしてるのか、それとも勉強なんて必要ないくらい頭がいいのか。まぁ文化祭が終われば3年のほとんどが受験一色に染まる。その頃には「もっと勉強しておけば」とか「去年に戻りたいとか」そんなことを聞きそうだ。